人事労務の基礎知識

雇用調整助成金とは?申請書類から申請方法まで社労士がわかりやすく解説

公開日:2020/06/01
最終更新日:2020/06/01

監修 ポライト社会保険労務士法人:榊 裕葵

雇用調整助成金とは?申請書類から申請方法まで社労士がわかりやすく解説

新型コロナウイルス感染症の影響で多くの企業が休業手当を支払って従業員の雇用を守りました。

また、雇用調助成金の制度改善もようやく形になり、助成金を申請がしやすい環境が整いつつあります。申請書類が大幅に簡素化されたことはもちろん、申請方法についても、窓口持参と郵送のみでしたが、オンライン申請も開始されます(本来は5月20日開始予定であったが、システム不具合により延期)。

このような状況の中、今、まさに雇用調整助成金の申請準備を始めている企業も多いと思います。そこで、この記事では様に雇用調整助成金の申請方法をわかりやすく解説していただきます。

目次

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雇用調整助成金とは

雇用調整助成金とは、どのような助成金なのか解説します。

なお、本稿で説明する雇用調整助成金は、4月1日から6月30日の緊急対応期間における「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例」に基づく内容になっており、通常時の雇用調整助成金とは異なりますでご注意ください。

また、雇用調整助成金は、休業だけでなく、教育訓練を行った場合にも対象となりますが、本稿では論旨が複雑になることを避けるため、ニーズの高い「休業」のケースに絞って解説をさせて頂きます。

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雇用調整助成金の全体像

雇用調整助成金が支給されるまでの流れを整理すると、次の通りです。

①新型コロナウイルスの影響で、企業が閉鎖や営業縮小をすることとなった。
 ↓
②そのため、従業員も休業せざるを得なくなった。
 ↓
③企業から従業員に対して、労基法で定める平均賃金の60%以上の休業手当を支払った。
 ↓
④支払った休業手当の一部が、国から企業に雇用調整助成金として支給される。

雇用調整助成金は、以上のことから国から従業員に直接支払われるのではなく、いったん企業が立て替える形で休業手当を従業員に支払い、その上で、企業から国へ、雇用調整助成金を申請する流れになるということです。

ただし、雇用調整助成金は、対象となる企業や従業員の範囲に制限があり、一定のルールに基づいて休業の実施や助成金の申請をしなければならないことに注意が必要です。

以上の前提を共有したうえ、ここから先は具体的な説明に入っていきます。

対象となる企業

雇用調整助成金を利用するにあたり、最初に確認をしなければならないのは、自社が雇用調整助成金の対象になるかとうかということです。

雇用調整助成金の対象企業となるためには、次の3つの条件を満たすことが必要となります。

  1. 「新型コロナウイルスの影響」により、経営環境が悪化し、事業活動が縮小した
  2. 最近1か月間の売上高または生産量などが5%以上減少した (前年同月比で5%以上減少を原則とするが、満たさない場合は、一定の要件を満たす他の月と比較することも可能)
  3. 労使間の協定(=労使の話し合いによる合意書)に基づき休業を実施した

上記要件を満たせば、ナイトクラブやキャバレー等も含め、業種による制限はありません。

出典: 厚生労働省 雇用調整助成金ガイドブック(P1新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置の拡大について)

対象者

雇用調整助成金の対象者は、雇用保険の被保険者です。正社員、契約社員、アルバイトといった雇用区分を問わず、雇用保険に加入している従業員が新型コロナウイルスの影響で休業をした場合には、加入者全員が対象となります。

また、雇用保険の被保険者期間(=在籍期間)による制限もありません。たとえば、新入社員が4月1日に入社して、そのまま自宅待機になったような場合も、雇用調整助成金の支給対象者となります。

短時間アルバイトなど雇用保険の被保険者以外の方は、雇用調整助成金の対象外です。しかし、雇用維持のための特別措置として「緊急雇用安定助成金」という助成金が創設され、雇用保険被保険者以外の方についても、雇用調整助成金に準ずる補償が受けられるようになっています。

出典: 厚生労働省 緊急雇用安定助成金支給要領

対象期間

雇用調整助成金は、常時存在している助成金であり、景気の変動により事業活動の縮小を受けた場合には、随時、申請は可能です。

しかし、本稿で説明している新型コロナウイルス対応の特例における緩和された条件で申請ができる対象期間は、令和2年4月1日から令和2年6月30日に行われた休業に限られます。

令和2年7月1日以降に休業が及ぶ場合には、政府から特例措置を延長する発表が無い限り、原則的な支給条件に戻り、対象者や対象となる企業、および次に説明する支給額について、緩和措置が適用されないこととなりますのでご注意ください。

緩和措置が延長されない場合は、入社6か月未満の従業員が支給対象から外れる、助成率(休業手当に対する助成金の支給率)が下がるなどの影響があります。

出典: 厚生労働省 雇用調整助成金ガイドブック(P1新型コロナウイルス感染症にかかる雇用調整助成金の特例措置の拡大について)

支給額

雇用調整助成金の支給額は、従業員20名以下の小規模事業者と、それ以外の事業者で計算方法が異なります。

従業員20名以下の事業者から順に説明します。

実際に支払った休業手当の額に、助成率を乗じた額が助成金の支給額になります。ただし、「8,330円×休業延べ日数」で計算された額が上限となります。

助成率は、原則としてコロナの影響による解雇等を行っていない会社は90%、解雇等を行った会社は80%です。ただし、一定の業種に該当する場合や、休業手当を60%以上の率で支払っている企業の場合は、91%~100%となります。様々な助成率があり難しく見えるかもしれませんが、フローチャートをたどっていけば、該当する助成率が選べるような仕組みになっています。

具体的に、次の会社の例で、雇用調整助成金の額を試算してみましょう。

  • 従業員数:10名(全員の基本給を30万円、その他の手当の支給は無いものとする)
  • 月の休業日数:20日(その月の全ての稼働日を休業)
  • 休業手当の支給率:60%
  • 助成金の助成率:90%

①休業手当の支給総額・・・30万円×60%×10名=180万円
②「①」×助成率・・・180万円×80%=162万円
③上限該当のチェック・・・8,330円×(20日×10名)=166.6万円
④助成金支給額・・・②<③なので、162万円が会社に支給される

次に、従業員数20名超の事業主について説明します。

従業員20名以下の事業主のように、実際に支払った休業手当をもとにして助成金支給額を計算するわけではないので、計算が複雑になります。

前年の労働保険の年度更新で計算した、雇用保険の確定保険料の基礎となった賃金総額を、前年の1か月平均雇用保険被保険者数および年間の所定労働日数で除して、会社全体を平均しての、1労働者1日あたりの賃金の理論値を算出します。

1労働者1日あたりの賃金の理論値の算出にあたっては、源泉所得税の納付書に記載された賃金額と人数をもとにして計算する方法も可能です。

上記で得られた理論値に、労使間の協定による休日手当の支払率、および、助成金の助成率(助成率のパーセンテージの決め方は20人以下の企業と同じ)を乗じて算出した値が、1労働者1日あたりの助成額単価となります。ただし、助成額単価の上限は8,330円となります。

助成額単価に、休業延べ日数を乗じて算出した額が、会社が受給できる雇用調整助成金の額となります。

こちらも、文章だけの説明では難しいので、次の会社の具体例で見てみることにしましょう。

  • 前年の賃金総額 7,200万円
  • 前年の平均従業員数 20名
  • 前年の所定労働日数 240日
  • 従業員数30名
  • 月の休業日数:20日(その月の全ての稼働日を休業)
  • 休業手当の支給率:60%
  • 助成金の助成率:90%

①1労働者1日あたりの賃金の理論値・・・7,200万円÷20名÷240日=15,000円
②助成額単価・・・15,000円×60%×90%=8,100円
③上限該当のチェック・・・8,100円 < 8,330円 なので、②の値がそのまま助成額単価
④助成金支給額・・・8,100円×(20日×30名)=486万円 が会社に支給される。

このように、20名超の会社の場合は、前年度の賃金総額などのデータから導かれる理論値をもとに助成金の支給額が決まります。そのため、実際に支払った休業手当の額と助成金の額が必ずしもリンクするものではないことにご注意ください。

出典:厚生労働省 雇用調整助成金ガイドブック(P7 4 助成額)

支給申請期限

雇用調整助成金の支給申請期限についてです。

雇用調整助成金の申請期限は、原則は対象期間の賃金締日の翌日から起算して2か月ですが、コロナウイルスの影響を受けて休業を行った場合、支給対象期間の初日が2020年1月24日から5月31日までの休業については、一律に2020年8月31日を申請期限する猶予措置がとられています。

コロナ特例対象期間の最後の1か月である6月1日から6月30日は、上記申請期限猶予措置の対象外ですが、原則の「賃金締日の翌日から起算して2か月」ルールに当てはめると、一般的な末日締めの会社の場合は、結果的に同じ8月31日が申請期限となります。

出典: 厚生労働省 雇用調整助成金ガイドブック(P8 第Ⅱ部 支給申請の手続き)

雇用調整助成金の申請書類と申請方法

雇用調整助成金を申請する際に必要となる申請書類と、申請方法について解説します。

申請書類

申請書類には、「法定様式」と「添付書類」があり、政府が指定した「法定書式」に必要な情報を記載し、その記載内容の裏付けとなる資料を添付書類として添えるイメージです。

必要な法定様式と添付書類は次の通りです。


<従業員20名以下の企業>

書類名説明
法定様式1支給申請書会社名・住所等の基礎情報
2支給申請書別紙 助成率確認票助成金の助成率を確認
3休業実績一覧表誰が何日休業したのかを記載
4支給要件確認申立書不正受給で無い旨の誓約書
添付書類1比較した月の月次売上等が分かる資料売上5%ダウンの証拠
2出勤簿、シフト表、雇用契約書等誰が何日休業したのかの証拠
3賃金台帳 または 給与明細休業手当支払額の証拠
4(役員がいる場合)役員名簿役員が申請に含まれていない等の確認

<従業員20名超の企業>

書類名説明
法定様式1支給申請書会社名・住所等の基礎情報
2助成額算定書助成金単価の理論値や支給額を確認
3事業活動の状況に関する申出書売上5%ダウンの状況や理由の説明
4休業・教育訓練実績一覧表誰が何日休業したのかを記載
5支給要件確認申立書 不正受給で無い旨の誓約書
(役員名簿もこの書式に含まれる)
添付書類1比較した月の月次売上等が分かる資料売上5%ダウンの証拠
2出勤簿、シフト表、雇用契約書等誰が何日休業したのかの証拠
3賃金台帳 または 給与明細休業手当支払額の証拠

従業員20名以下の企業と従業員20名超の企業で、準備する書類に大きな違いはありません。ただし、法定様式が、20名未満の企業用のものは記載内容が大幅に簡素化されています。

添付書類に関しては、審査での必要に応じ、追加書類を求められる場合があります。速やかに支給決定を受けるためには、追加書類を求められた場合は、迅速に対応するようにしてください。

休業手当の支給率などの主要な休業条件を労使で合意した「休業協定書」は提出不要とされていますが、休業協定書の作成・締結自体が不要になったわけではありませんので、後日、調査などがあった際に不備を指摘されないよう、しっかりと作成・締結して、社内で保管しておいてください。

出典: 厚生労働省「雇用調整助成金ガイドブック(P2 支給申請に必要な書類(休業))


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申請方法

雇用調整助成金には、「窓口持参」「郵送」「オンライン」の3パターンの申請方式があります。

いずれも、必要となる法定様式や添付書類は同じです。

窓口持参の場合は、ハローワークへの移動や、ハローワーク内の混雑で「三密」になる可能性がありますので、可能であれば避けたいところです。

しかし、書類の書き方が分からなかったり、自信が無かったりなどで、窓口で相談や確認をしながら提出したい場合は、やむを得ませんので、マスクをしっかり着用するなどの自己防衛をして、ハローワークの窓口を訪ねてください。

郵送の場合は、必要な書類一式を封筒に入れて所轄のハローワークへ郵送します。万が一の郵送事故等に備え、確実に提出したという証拠を残すため、特定記録など追跡のできる方法で郵送するのが良いでしょう。

返信用封筒を添えた場合、受理印の押された控を返送してもらえるかは、都道府県によって扱いが異なるようですので、控を受け取りたい場合は、あらかじめ所轄のハローワークに相談をしてください。

オンライン申請は、WEBのフォームに必要情報を打ち込むような形ではなく、作成した申請書類をPDF等にして、それを添付して送信するような形になります。したがいまして、オンライン申請を行おうとしている場合も、書類自体の準備は、窓口持参や郵送の場合と同様の形です。

なお、オンライン申請は、5月20日から開始される予定でしたが、システムに不備が見つかり、現時点(2020年5月21日現在)、運用開始がいつになるかは不明です。

出典: 厚生労働省 雇用調整助成金などの申請方法に「雇用調整助成金等オンライン受付システム」が加わりました

まとめ

雇用調整助成金の申請は、当初から書類の多さや複雑さが社会問題になっていましたが、ここにきて大幅に簡素化され、オンライン申請も認められるようになったなど、ようやく光が差してきたと言えそうです。

政府のほうも可能な限り迅速な支給につなげようとしています。また、添付書類は正式な賃金台帳や雇用契約書が無かったとしても、休業の実態が確認できる証拠となる書類があれば、支給を行う方針としています。

事業の維持および、雇用を守るため、是非、雇用調整助成金を積極的に活用してください。

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執筆: 榊 裕葵(社会保険労務士)

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